[おやばか]娘はしまじろうを知らない

 娘、5歳。

 pollyanaが、先日のエントリーでしまじろうネタを披露していた(?)が、娘は大してしまじろうには興味はないらしい。・・・・もっぱらプリキュアシリーズですな。pollyanaのむすめちゃんもそのうち、だろう。
 わが娘ながらたいしたものだと思うのは、我が家にはテレビがないにもかかわらず=inoue(単身赴任中)が赴任先に持って行ってしまったため=、プリキュアのファンであること。保育園での情報交換はきっちり機能しているらしい。おかげで、“たのしい幼稚園”だけは毎月欠かさないことを要求してくる。
 いつか旅行先でたまたまプリキュアのテレビを見たとき、“出てくるかいじゅうがこわい”と言って、娘はさっさとチャンネルを替えてしまった・・・いちおうヒーローものだぞ、娘よ。

 ほかのもっぱらの関心は、鉄棒のさかあがり(まぐれでできることはあるけどね)、保育園の友達とのお手紙交換(字がひっくり返っているのはごあいきょうだ)、あとはDVDの”TOM and JERRY”。一時期宮崎アニメに入れ込んでいる様子によしよし・・・と思っていたinoueとしては、うーん、”TOM and JERRY”か・・・と思わなくもないが。お手紙交換、は女の子の文化なのかねえ。

 果物の季節、娘は”なしがたべたい”としきりに言う。はじめは”らし”に聞こえて、なんだそれは、と娘につっこみを入れていたが、”な”と”ら”の舌の位置を自分で試してみて納得。まだ舌が足らないんだね。

[書評]ケンブリッジの卵


ケンブリッジの卵―回る卵はなぜ立ち上がりジャンプするのか


 おもちゃと古典物理は、実は切っても切れない関係がある。ゆで卵にせよ、オイラーディスクにせよ、現象は知っていても、それをきっちり古典物理で説明できるべきところがなかなかできなったのである。だから、解ければNatureにだって掲載されるわけだ。それこそinoueが学生の頃、戸田盛和が、”おもちゃの科学”を数学セミナーに連載していたことを思い出す。
 本日のお題だと、たとえばブーメランがその例であった。あれは垂直方向にスピンをかけて曲げるが、いつの間にかそれが水平方向の回転となり、さらには自分のところに“戻って”くる。垂直→水平の変化はジャイロ効果で説明できるが、“戻る”部分の理解は、まさに羽の後ろの部分で生じる“乱流”を解かなければならず、難しいという話であった。

 さて・・・この本もまた大きく2つの内容からなる。一つはたまごの立つ話、もう一つはたまごのジャンプする話である。
 じつは下村は、たまごのテーマをやりにケンブリッジ大に留学したわけではなかった。本人の専門は流体力学であり、Moffattとの研究は元々予定されていたものではなかった。ただ、当初の目的の流体力学関連のテーマでは思ったような成果が出せず、たまごのテーマはMoffattの講演を聴いたところからたまたま始まったのである。雑談の中で、下村は“運がよかった”といったが、なるほどこのテーマに突き当たったいきさつだけをいうならば、“運がよかった”のだろう。そのあとの難問の攻略や、共同研究者であるMoffattを“やる気にさせた”熱意は、運がよかったですむ話ではあるまい。悪戦苦闘の末、たまごが“立つ”ことを記述する”ジャイロスコピック解”にたどり着くのである。これがNatureの記事の骨子である。
 さて、下村はこのジャイロスコピック解を用いてたまごの回転のシミュレーションした。そこで、シミュレーションにおいて“異常終了”に出会い、これがたまごのジャンプの予言につながっている。ささやかな事象ながらも、この“予言”ことが物理の醍醐味であるとinoueは思う。
 後半は、ここで予言した“ジャンプ”を実際にとらえるための慶應チームのたたかいの記録となっている。下村はさらりと書いているが、いわば“基礎教育”への貢献を求められる場所での研究であったために、それなりの苦労はあったであろうことをinoueは推察する。(ただ・・・理工学部で、大学院生をかかえる研究室でこのような古典的な力学の研究ができたかというと、それもまた疑問ではあるが。)この研究は、Proc. Royal Soc.への論文発表というかたちで結実した。
 
 本書は、下村の関わったこれら2つの、古典的ではあるがきわめて内容の豊かな研究がいかに遂行されたか、という記録である。下村の最後の結びである”不思議に気づくこと”“力を合わせること”“自分に誠実であること””わかりやすく説明すること”を結びとしているが、このテーマに突き当たる“機会”を提供したのがケンブリッジ大に他ならなかったという懐の深さ(ほかでは難しかったのではないだろうか)、そして、その機会を最大限に活かしきった下村の力量に敬意を表したい。

 

回るおもちゃ

 慶應の日吉キャンパスで行われた↓に行ってきた。


実演!回転物体の不思議な運動


 数年前、“ゆでたまごが立つ理由”について、理論的に解明できたことがNatureで速報になったことがあった。それを解決したのはケンブリッジ大のグループで、そのうちの一人が今回の演者の下村 裕である。


Classical dynamics: Spinning eggs ― a paradox resolved p385
An explanation for an odd egg performance is rolled out in time for Easter.
H. K. Moffatt and Y. Shimomura


 今回の講演(?サイエンス=カフェだからなあ・・・)は2部からなっていた。第一部は昨年7月にイギリスで開かれた”王立協会夏季科学展覧会”の様子の紹介、第2部は”回るおもちゃ”の実演・実習であった。inoueは遅刻してしまったので第一部は聞き逃したが、第2部には間に合った。ここで紹介されたおもちゃは以下の通り。なお、“実演”は、下村自身によるデモンストレーションで、“実習”は、観客が実際それらのおもちゃで遊ぶことである。

・回転卵(ゆで卵の話)
オイラーディスク(コインを回すと、しばらくすると“カタカタ・・・”といってコインが倒れて止まるが、これをおもちゃにしたものがある。ちなみに、”オイラーディスク”で検索してもひっかからなかったが、”Euler disk”で引っかかった下の動画で、inoueが何を言わんとしているのかをくみ取られたし。

なお、ゆで卵の論文における下村の共同研究者のMoffattは、このオイラーディスクのメカニズムを解明して、やはりNatureに発表している。
・ブーメラン(あれもまわすものである)
・・・

 会場はだいたい20−30人程度入るほどのスペースであったが、子供連れやカップル(夫婦)、はては学生もいて結構いっぱいであった。“実習”で、おもちゃにチャレンジする親子や夫婦、自作の“おもちゃ”を実演する人など、カフェらしくてほほえましかった。

 カフェ後、演者や学生さんとちょっと立ち話をする。学生時代に世話になったお礼(学生時代、講義で世話になったのである)と、持参した下村の著書へのサインをお願いしたのであった。ちなみに、カフェ終了後に話していたこの学生さん、inoueの大学のちょうど20年後輩であることを知り、びっくりした。”あれも興味がある、これも勉強したい”という熱さがまた、ほほえましく、頼もしくもあった。(”力学はランダウよりはゴールドスタインで・・・”などということを臆面もなくいえることが、若くてよい)
 梅田がSeptember 11のあとで、“時間の使い方の優先順位を変える”といって近藤を見いだし、はてなにコミットしていったのだとおもうが、そういう気持ちが少しだけわかった瞬間であった。inoueにとっては学会準備もあったのだが、それをおして“いった甲斐のあった”サイエンス=カフェであった。
 そういえば、このカフェの仕掛け人の一人が鈴木 忠である。今回のスピーカーの下村といい、鈴木といい、ともに現在は慶應のいわば“基礎教育”にコミットする人たちであるが、いわゆる“100年の計”としての教育って、こういう人たちの思いが作っていくものかもしれないなどとも考えた。

ビスフェノールA

 昨日に引き続き、C&ENから

Bisphenol A Assessment Released - C&EN

 9月3日、NIH (National Institutes of Health) - NIEHS (National Institute of Environmental Health Sciences)傘下のNTP(National Toxicology Program )が、ビスフェノールAの人体への影響についてのモノグラフを公表した。つまり、元記事はこれ。

3 September 2008: NTP Finalizes Report on Bisphenol A

 ビスフェノールAの影響を、人体に対する影響として報告されてきたものや、動物実験結果の報告に基づいて判断しようとしたもの。人体に対する影響については、データが少ないうえ、そのなかで”ビスフェノールAの影響”と言い切れるケースが限られるとしている。そのなかでも”ビスフェノールAに恒常的に曝露してきた成人男性のケースについては、ホルモン様の影響が認められる”としている。なお、NTPでは人体への影響を5段階に分けて=“影響なし”から、“重大な影響”まで=評価しているが、この“ホルモン様の”影響については、下から2段目の”軽微な影響”とランクづけている。

 一方、胎児から子供に至る発育時の曝露に対する影響については、マウスおよびラットによる研究成果を元に、”発育に何らかの影響がある”(3段目)としている。ただし、動物実験の結果と、人体への影響への関連づけについては、“さらなる研究が必要”としており、この評価が流動的であることを示唆している。(もっともNTPのヘッドラインでは、この”3段目”というのが強調されているきらいがあるのだが・・・)

 なお、FDAは先月、”現状の曝露の程度であれば、ビスフェノールAが人体に及ぼす影響は認められない”とする評価結果を公表しており、この評価結果に対する公聴会が9月16日に予定されているとのこと。

FDA Calls BPA Safe - C&EN

 ”環境ホルモン”問題から10年。ビス−A代替研究を行った研究機関も多かったと察する。また同じような研究テーマが立つかもしれない。
 ただ、テーマをたてるに当たっては、実際にこれらの報告書を熟読の上、”はたしてこの“影響”が本物か?実際の住環境で起こりうることなのか、ということを自ら判断して、行うことが賢明であろう。そのような意味で、化学物質の持つ“リスク”とのつきあい方、という点で、佐藤健太郎の本は、常識に基づいた良書であると思う。

「化学物質はなぜ嫌われるのか」25日発売

C-F結合の切断

この反応は、燃料電池関連がらみでもgood news かもしれない。

Breaking C–F Bonds: C&EN

 C-F結合は、かなり“安定”な結合であるために、テフロンコーティングなり、あるいは燃料電池におけるナフィオン膜の機能の安定性を担保しているところがある。有機化合物の直接フッ素化というのは、通常激しい発熱を伴う、というのもこのことと関連するし、企業の立場に立てばフッ素化技術が強みになっている企業も少なくない。裏を返せば、C-F結合の切断はそれだけ難しいということ。ちなみに、最近一番話題になった“フッ素化合物”はこれだろう。

北京「鳥の巣」、天井の膜は日本製: 化学業界の話題

 リンクのC&ENの元記事はScienceの論文(Christos Douvris, et al., Science, 321, 1188 (2008)。従来のアプローチ法が、水素を極力活性化して還元的雰囲気で脱ハロゲン化反応を起こそうとしていたのに対し、(確かに、inoueはこちらの考えの方がなじみがある。貴金属触媒を用いた”水素化脱塩素化反応”というものがあるので)このグループはR3Si+というルイス酸をin situで発生させてFの引き抜きを狙っている。ルイス酸、というアプローチはいかにも有機化学的だなあと考える。
 ちなみに反応温度は25度、触媒のサイクルは1000回強で、まさにこれからの反応である。また、筆者らが指摘していることだが、本反応は”R3Si+”という活性種に依存する反応であるため、リサイクルのような反応に対してこれをどうadjustしていくかは課題になるであろう。
 そういえば、有機化学美術館・分館で取り上げられていたセルロース分解にしても、東工大の原らによるセルロース分解にしても、酸触媒(系)がキーである。(加水分解なんだから、当たり前といえば当たり前だが・・・)なにはともあれ、古くて新しきは酸触媒である。

 それにしても、ACS(アメリカ化学会)は化学系の学会でもっともITを使いこなしている学会に思える。C&ENのrssフィードがなければ、この反応をinoueが知るのはもう少し遅れたであろう。・・・というのは不勉強の言い訳だ。

追記:ようやくinoueもはてなダイアリー市民になった。

技術職のスキルの活かし方

 新华网(xinhuanet)でこんな記事を見つけて、正直びっくりした。

日刊:日本“自废武功” 科技人才大量流入中国

 実は、元ネタは”週刊ダイヤモンド”(中国語では”《钻石》周刊”。勉強になった)の8月23日号 大塚政尚(技術経営機構社長)の寄稿(日本の屋台骨を揺るがす「技術者使い捨て」の大罪)らしい。中国企業の待遇が日本の中小企業に較べて恵まれているために、再就職先に中国企業が選ばれていること、人材流出が80年代(Samsungが当時は”受け皿”であった)から始まっているが、中国への人材流出が最近5年間の間に顕著になったことなどが紹介されている。オーバードクター(待业博士)にも言及されている。(追記:recordchinaで和訳が出ているらしい。あさってのほう4chとのおとなり日記でわかった。)

 そこで思い出したのがpollyannaのエントリー

道はどこにでもある

研究以外では生きていけない、と思いこんでいるとしたら、間違いです。

研究しかしたくない、ならわかる。

でも、10年も研究を続けることができたのなら、研究以外の道でもやっていけるだけの資質が、かならず備わっているはずです。

もし、違う道に進みたい、と思われるのであれば、おそれることも、卑下することもありません。

「こんなことができる」「こんな能力をもっている」と、どんどん自分を売っていったらいいと思います。


 能力、というにはおこがましい話だが、個人的な感慨をひとつ。inoueは学位をとって企業に就職したが、意外だったのが”業務”であったはずのスキル(特許検索)が、数年たって日常のスキルに転化してきたこと。”検索”がここまで日常茶飯事なものになるとはついぞ思わなかった。勝間和代が著書の中で、”フツーのビジネスマンにも、コンサル的なスキルが求められる”とのたまっていたと思うが、“コンサル”を“技術屋”に置き換えても通用するシーンが少なくないという例だろう。

 ダイヤモンドの記事中の”大罪”とは、経営者の視点。下から見れば、”海外に活路を求める”という生き方もある、とも読める。もっとも、そういう生き方がはまる、はまらないの個人差はあるだろうし、景気と時代にも左右される話だとは思うけれど。そう、だから、サバイバル

 

9月1日

 昨日、家の近くのホームセンターで修理道具を物色していたら、”ミスター・サマータイム”が流れていた。そして今日、久しぶりに通学の学生さんを多々見かける。夏が終わった。
 inoueのような研究所勤務のものにとっては、9月は学会シーズンでもある。今年は触媒・化学工学系の国際学会が日本(+アジア)でかなりまとまって開かれており、これらの学会運営で忙しい先生方もかなり多いはず。おつかれさまである。inoueも、来週は京都の国際学会に参加する予定である。

 昨日聴いたビジネス英語のビニエットのテーマが、”ビデオコンファレンス”であった。リアルな出張を代替できるような、ハイエンドな機種・インフラによる”ビデオコンファレンス”が使われつつある、といった要旨であった。
 果たしてこれが、学会のように数百人レベルの会合にも適用可能なりや?それとも、学会くらいは”face to face”の場として残っていくのだろうか?ポスター発表は難しいかもしれないが、口頭発表くらいであればyoutubeやニコ動で対応できるんじゃないかと思う。

・・・・と、平穏に9月が始まるかと思ったのだが、突然の福田内閣の総辞職。選挙も近そうだ。