自分のブログを開けてみて、最後のエントリーからほぼ5年経過していたことを知る。最後のエントリーは李開復の『AI・未来』のイントロの翻訳だった。
それから5年、中国書籍の完訳を刊行できたことは、まことに喜ばしい。inoue個人の力ではなしえないような高みだと思う。あらためて、監訳者の持橋先生、および東京化学同人の関係各位(出版の決断から編集、さらにはマーケティングまで)のご尽力にはいくら感謝してもしたりない。
本書を訳すに当たっての思いの丈などは、「訳者まえがき 簡潔を是とする」にものしたし、この部分は「試し読み」としてフリーで読めるところにもなっているのでリンクを張っておくことにする。
以下、備忘録的に書ききれなかった話を。
1.原著『数学之美』を「どこ」で知ったか
原著を知った2010年代後半当時、inoueは産総研にいて反応工学関連の国際会議などで中国に行く機会に比較的恵まれていた。途中から現地の書店をまわる楽しみを見つけた。北京なら图书大厦、上海なら上海书城、他の都市ならいちばん大きな新华书店をみつけて本を渉猟する、というスタイルを確立しつつあった。
同時に味を占めたのは「ネットによる中国書籍の購入」である。いまよりも中国語に不如意だったのに、taobao(淘宝网)で書籍を買いあさる悪い癖をつけた。本棚の肥やし、とはよく言ったものだ。
現地書店とtaobao(淘宝网)にここまで入れ込んだ理由は、中国の自然科学系の書籍に出会える場所が、いまでもこの2ルートしかないから、だ(中国書籍に関して言えば、amazonは大して使えない。今ならjingdong(京东网)もオプションだろうが、2010年代後半は少なくとも海外からは使いづらかったように思う)。
taobaoのよいところはamazonと同様、購入履歴を探りやすいところだ(UIはamazonに比べると残念なところもあるが、認証プロセスはamazonよりましだと思う)。気になって調べたら・・・本書の購入はtaobao経由だった。数学にまつわる本だし、啓蒙書だし、inoueでもナントカ読めるだろう・・・と当時考えて購入したに違いない。翻訳書の出版にこぎ着けるまで足かけ8年かけたとはいえ、原著はinoueにとって肥やしにまみれた宝だとも言える。
またこれだけいろいろ身銭を切って購入していると(inoueの専門の事情で触媒、反応工学系の書籍が多いのだが)、「ここの記述は英文教科書のあの部分の引き写しだな」などと思い当たることも増え、それなりに書籍を選ぶ眼も肥えてきた・・・と思う。
しめくくりに、inoueがこのような中国書籍を購入するに当たっての基準について今の考えをまとめておく。
1)日本に類書のないこと、または、日本の書籍では見られない、中国人ならではの視点が期待できること
2)原著者が中国人であること
3)中国において、受賞歴やその道の人の推薦がついていること。こと『数学之美』について、inoueにとって決め手になったのは李開復の推薦文だった。
今後も、中国の自然科学系書籍の渉猟、発掘、翻訳を、引きつづき手がけていきたい。