今年の10冊

 [書評] 今年の10冊

 今年の備忘録の1つとして、今年読んで印象に残った本をものす。
1.かまくら子ども風土記
 inoueの小学校時代の愛読書の1つ。当時はB6版の4分冊だった。鎌倉駅前の島森書店で購入。
いまこのエントリを書いているときに気づいたのだが、amazonその他では購入できないみたい。
 読み直してみたら・・・あんまりinoueが子どもの頃と内容は変わっていなかった。

2.ぼくは日本兵だった

ぼくは日本兵だった

ぼくは日本兵だった

 inoueが中学生だった頃、「百万人の英語」というラジオ番組があった。そこでのキーマンの一人がJ. B. Harris氏。
30年を経てamazonで購入。(当然中古ですね)・・・想像を超えた良書でした。下々にとっての戦争、中国人の対日感情(Harris氏は中国に派兵されたので)、敗戦後の旧友(戦時中は敵)との再開・・・彼ならではの経験がてらいもなく描写されていた。なかなか復刊にはならないと思うが、復刊されて欲しい本。

3.フランクリン自伝

フランクリン自伝 (岩波文庫)

フランクリン自伝 (岩波文庫)

 今年は公私共々の事情でアメリカに行く機会の多い年だった。そのなかで読んだ本。本の表紙で「今日のアメリカを理解するためにも・・・」とあったが、アメリカ人がなにを美徳と心得るかを知る良書だと思う。

4.Rumsfeld's Rules

Rumsfeld's Rules: Leadership Lessons in Business, Politics, War, and Life

Rumsfeld's Rules: Leadership Lessons in Business, Politics, War, and Life

 史上最年少と最高齢のアメリカ国防長官、おまけにイラクの状態悪化を受けて事実上解任された人による「箴言集」。なので新聞の書評などだといまひとつ評判がよくないが、inoueは尊敬できるアメリカ人の一人だと思っているし、amazonの書評も新聞などのものに較べると受けがいいように見える。(inoueのアメリカの知人は「ええっ!?」というかもしれない)海軍→議員→政権スタッフ→国防長官→企業重役→中東特使→・・・→国防長官、という経歴もアメリカならではだと思う。この本のスタイルは氏の箴言と、そのもとになったエピソードが織り交ぜられていて楽しい。なお、inoueのもっとも好きな箴言はこれである。

Beware when an idea is promoted as "bold, innovative, and new. (p. 276)ただこの箴言、じつは続きが。

  • There are many ideas that are “bold, exciting, innovative and new,” but also foolish.

 inoueも、Rumsfeldが研究には向かないだろうことは認めよう。未読了。

5.Robert Oppenheimer

Robert Oppenheimer: A Life Inside the Center

Robert Oppenheimer: A Life Inside the Center

 アメリカで購入。しばらくはしゃかりきになって読んでいたけれどもやはり未読了。
 前半部分は、Oppenheimerの生い立ちと、彼がキャリアを築いていくのと同時進行であった量子力学が構築されていくさまがvividに描かれている。この書きぶりは脱帽ものであるし、たぶん本書の1つのテーマ。次のテーマは当然マンハッタン=プロジェクト、そして最後は赤狩りで中枢からいわば放逐されていくところがテーマだ(と思う)。何せ未読了なので。
 学生の頃読んだ「スピンはめぐる(朝永振一郎)」をおもいだしながら読んだ。inoueのような化学屋にとってBorn-Oppenheimer近似、って量子化学の基礎的な近似なんだけど、このOppenheimerがまさにその人。

6.Reinventing the Automobile

 これもアメリカで購入。じつは購入したときにmedia labを訪問したんだけど、そのときレーザーカッターと3D printerというdigital fabを駆使して本書のスマート・カーのプロトタイピングを行っていたのが印象に残ったので。この本を購入したときに期待したのは、こういうプロトタイピングのプロセスだったんだけど、もちろんそれにとどまる本ではなかった。都市のデザインと、その中にあるべき車のデザインの提案、といったところ。
 なお、著者のMitchell教授は最近亡くなったが、別の本でMITのキャンパスデザインにもかかわっていたことを別の本で知って驚いた。神の愛でし人、だったのだろうか。

7.紅の党

紅の党 完全版 (朝日文庫)

紅の党 完全版 (朝日文庫)

 胡錦濤体制から習近平体制への移行は、一見平和裏に行われたもののすさまじい権力闘争が外部からも垣間見えた、という意味ではこれまでにない政権交代だった。それを枕にして、中国共産党を朝日新聞の総力を挙げて取材した成果。朝日新聞ならではの取材ができているという意味でも好著だと思う。

8.福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書
 技術者としては必読だと思いつつ読めていなかったのだが、遅ればせながら通読した。何回か読み直す必要があると思う。東電が取材(聴取)に応じなかったのが何とも残念。inoueにとって電子書籍がありがたいと思った反面、ディスカヴァー・トゥエンティワンからしか出ていないというのも残念。国会事故調も読まなきゃ・・・と思いつつ、こちらはまだダウンロードしただけ。
 カウントダウン・メルトダウンも一気に読了。ドキュメンタリーなので読みやすいが、やはり技術者としては報告書を読まなきゃと。

カウントダウン・メルトダウン 上

カウントダウン・メルトダウン 上

カウントダウン・メルトダウン 下

カウントダウン・メルトダウン 下

9.桜の園・三人兄弟

桜の園・三人姉妹 (新潮文庫)

桜の園・三人姉妹 (新潮文庫)

 11月にさる講演会を聞きに行ったら、media labの准教授のNeri Oxmanの講演があった。(林 千晶のいうところの「美人すぎる大学教授」である。)彼女に「技術と人間の関わり方が、今後どうなっていくのか」という質問をしたときの彼女の答えが「チェホフを読め」だった。inoueは小説はしばらく、というかかなり遠ざかっていたのだが、「頭のいい美人のいうことは無条件に受け入れる」ということで読んだ。他のロシア作家と較べて、チェホフは読んでて愉しい。

10.エネルギー問題の誤解 いまそれを解く

 311以降、エネルギー供給の将来をどう考えるかについて未だに考えがまとまらない。なのでいろいろ読んだが、そのなかでも一番納得のできた本。エネルギーは供給に至るまでのシステムとして考えなければならない、という視点は当たり前かもしれないが、これまでinoueの考えにはなかった。