C-F結合の切断

この反応は、燃料電池関連がらみでもgood news かもしれない。

Breaking C–F Bonds: C&EN

 C-F結合は、かなり“安定”な結合であるために、テフロンコーティングなり、あるいは燃料電池におけるナフィオン膜の機能の安定性を担保しているところがある。有機化合物の直接フッ素化というのは、通常激しい発熱を伴う、というのもこのことと関連するし、企業の立場に立てばフッ素化技術が強みになっている企業も少なくない。裏を返せば、C-F結合の切断はそれだけ難しいということ。ちなみに、最近一番話題になった“フッ素化合物”はこれだろう。

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 リンクのC&ENの元記事はScienceの論文(Christos Douvris, et al., Science, 321, 1188 (2008)。従来のアプローチ法が、水素を極力活性化して還元的雰囲気で脱ハロゲン化反応を起こそうとしていたのに対し、(確かに、inoueはこちらの考えの方がなじみがある。貴金属触媒を用いた”水素化脱塩素化反応”というものがあるので)このグループはR3Si+というルイス酸をin situで発生させてFの引き抜きを狙っている。ルイス酸、というアプローチはいかにも有機化学的だなあと考える。
 ちなみに反応温度は25度、触媒のサイクルは1000回強で、まさにこれからの反応である。また、筆者らが指摘していることだが、本反応は”R3Si+”という活性種に依存する反応であるため、リサイクルのような反応に対してこれをどうadjustしていくかは課題になるであろう。
 そういえば、有機化学美術館・分館で取り上げられていたセルロース分解にしても、東工大の原らによるセルロース分解にしても、酸触媒(系)がキーである。(加水分解なんだから、当たり前といえば当たり前だが・・・)なにはともあれ、古くて新しきは酸触媒である。

 それにしても、ACS(アメリカ化学会)は化学系の学会でもっともITを使いこなしている学会に思える。C&ENのrssフィードがなければ、この反応をinoueが知るのはもう少し遅れたであろう。・・・というのは不勉強の言い訳だ。

追記:ようやくinoueもはてなダイアリー市民になった。